• 古澤慎之介

制度先行の「働き方改革」がスベるわけ。

 少子高齢化や働く人のニーズの多様化に伴い、「働き方改革」という言葉が流行り出してずいぶん時が経ち、いくつかの働き方がシーンに応じて選択できるようになってきている木企業も多い。しかし、これによって「生産性の向上」という目的をも果たしている企業となると、まだまだ発展途上といったところだと思えます。


 厚生労働省のホームページにある「働き方改革」の背景と目的を見てみると以下の様になっている。

我が国は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面しています。
こうした中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。

「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。

 この中でも「投資やイノベーションによる生産性向上とともに」「就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作る」となっており、この生産性の向上の部分については未だに模索中の企業も多いのではないでしょうか。


 また、多様な働き方を認める中での評価基準の見直しや休暇制度や勤怠管理などの制度設計が必要なことから、多くの場合、働き方改革を主導するのは人事部になるケースがほとんどです。人事部の努力の結果、多様な働き方に見合った合理的な評価制度や、社員にとって魅力的な各種制度が出来上がっていくのですが、これを浸透させていく運用プロセスで苦労をしているケースも少なくありません。


 働き方改革の目的は、生産性の向上と、より働きやすい環境整備、この両輪がしっかり機能することです。これによって、業績向上だけでなく、社員のエンゲージメントは上がり、意欲の向上、離職率の低下、採用のしやすさにもつながってきます。しかし、この両輪を回すのにはいくつか壁があります。

制度改革先行・意識改革遅行そして生産性の問題が足枷に。

 働き方改革の骨組みとしての評価制度の見直しや、各種制度設計が出来上がっても、各事業部においては「ちょっと、待った!」の声が出てくることがあります。やりたいことには理解してもらえても、実際に数字を作り評価される部門としては、それを実行すると自部門の成果に影響が出るという意見が出てきてしまい、結果的に制度は整ってもうまく運用できないという事態になってしまうのです。


 小規模のベンチャーなどは、経営陣含めて全社員で話し合いながらできるので、目的や課題も共有しつつ制度だけでなく運用においても最適解を導いていけるため、このような問題にはなりにくいのですが、ある程度の規模になってくると、そう簡単にはいかないのです。


 ここで大事なのは、小規模の企業で働き方改革の両輪を回すのがうまくいきやすい理由です。小規模の組織の利点は一人ひとりが全社のことを見通せるため、企業の存在目的、目標、現状の課題だけでなく、誰が何をやって、現場で起きていることなどがしっかりと共有できているということにあります。個々で役割は存在しますが、役割をまたいだチームプレイをしていく必要もあり、自分の役割だけでなく、会社全体のことに対して当事者として考え行動するのが当たり前になっています。


 そのような中で、生産性を向上させながら、より良い職場作りにするために何ができるかということを全員で話し合い決定していくことで、実体に即した最適解が生まれてくるということです。これはベンチャーが優秀で大手がそうでないということではなく、あくまで規模の違いによる生じる結果という意味です。


 規模が大きくなるにつれ、個々で担当していた仕事が部署化され、より合理的に成果が出るように機能体としてシステム化されていきます。同時に作業は細分化され、部署ごと、さらには担当ごとに KGI・KPIが設定され、その達成に向かって個人は動きます。


 同じ会社内でも、それぞれの部署に求められる成果が違う以上、成果の出し方に伴い働き方も変わってきます。それにもかかわらず「働き方」という切り口だけの改革をしようとすると、どうしても、うまくいかず、制度ばかりが先行して、結果として制度はあるけど活用しきれないという事態に陥ってしまいます。


働き方の制度設計の前にやるべきことは「課題と未来」の全社共鳴。

 働き方改革を進める上で、まずやらないといけないのは、今後どのような会社になっていくんだという「未来像の認識の統一」です。この認識の中には現状の課題と理想の未来の2つについて全社員で認識を合わせる必要があります。そんなことかと思う人もいるかもしれませんが、働き方改革がうまく機能していない会社は、これを形式的にやっているだけという場合が多いのです。


 現状の課題や未来像の認識合わせをする目的は全メンバーが変革の当事者になるということです。個々が自分ごとで考えるには、現状の課題はこのままでは自分にデメリットがあるものでなければ関心は薄いままですし、未来像は個々にとってワクワクするものでなければなりません。基本的に人は変化を嫌います、今の現状から脱却し、素敵な未来に行きたいと心から思わないと人は行動しないものです。


 つまり、形式的に、社長の署名入りの文書を流すだけではこの目的を果たせないということです。変革は、経営層、中間層、スタッフ層にとって享受するメリットは違います。それぞれの視点からの動機形成をしていく必要があるのに、経営層の大極的な視点からメッセージを伝えてもピンとこないのです。働き方改革をやる目的と意味、そして動機形成を各層ごとに腹落ちさせていくプロセスは働き方改革を成功させるために欠かせないのです。


 働き方改革をやる意味(現状の課題と目指す未来)をただ情報を全社に共有するだけでなく、共感してもらい、共鳴するレベルまで意識を持っていくことが大切です。そのためにできることは、トップの号令ももちろん大事ですし、中間層がそれを噛み砕いてスタッフ層の動機形成をして個々に火をつけていくというプロセスが大切です。


 これを実現していくためには、ある程度の規模の会社における働き方改革は、経営トップ主導の全社プロジェクトとして、全部署のキーマンをアサインし、人事部門がプロジェクトリーダーとして舵取りをしていくような体制にするとやりやすくなります。


成果の出し方を変えなければ、働き方改革は成功しない。

 働き方改革で各種制度を充実し、従業員が気持ちよく働ける、その結果モチベーションが向上し、生産性も上がる。現段階では、確かにそう言えなくはないですが、この先10年20年を考えていくと労働人口は今よりも更に減るだけでなく、人口減により、国内市場消費意欲・購買力のある層も減っていくため、企業はビジネスモデルの変化や市場の開拓などはもちろんですが、組織及び従業員一人ひとりの生産性の向上も必須となってきています。


 このことからも働き方改革は、この生産性の向上という土台の上に設計されないと意味がありません。


「成果の出し方改革」考え方の2つの軸。

 成果の出し方改革は、半分の時間で同じ成果を挙げる効率化と、同じ時間で10倍の成果を挙げる変革の2軸で考えるようにします。


 半分の時間で同じ成果を挙げる効率化については、業務作業と時間の使い方の棚卸しが基本です 。これを聖域を設けず一旦全部整理することで、無駄かもしれないという可能性を炙り出します。業務作業の無駄と個々の時間の使い方には相関性がある場合もありますし、単純に個人の時間の使い方に無駄がある場合もありますので、この両方の側面から無駄を炙り出していきます。


 基本的には、ここで炙り出した無駄は、そのまま削減するものもあれば、削減ではなく、何かしらもっと時短できる効率的な方法に代替が必要なものもあります。この棚卸しを会社レベル、組織レベル、個人レベルで行うことで、かなりの時間を生み出せることもあります。


 同じ時間で10倍の成果を挙げる変革については、もはや改善レベルではどうにもならないものです、以前、私はこれを「3倍」と表現していたのですが、世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか グーグルの個人・チームで成果を上げる方法』(ピョートル・フェリークス・グジバチ著、SBクリエイティブ)という書籍に、グーグルでは「現状の10倍の成果が出るように考える」ことが求められるという記述があり、それを見て以来「10倍」に便乗させてもらっています。


 グーグルには、「1億人のためになるサービスでないとスタートしない」という考え方があるようで、そのため「10x」といって「今の10倍の成果が出るように考える」ことが求められるというものです。10%アップではなく10倍だというところがすごいですよね。


 10倍の成果を出すためには、改善レベルではなく、自分の成果の出し方そのものを全く違うものに変革していかないとこれは成し遂げられないということであり、当然、創造的破壊が必要になってきます。


 昨今現状維持思考は衰退の始まりと言われている中で、この思考はとても重要です。もちろん、すぐには実行・実現できるものではないですが、働き方改革をの肝になる成果の出し方としては、このくらいのインパクトを持った変革ビジョンは必要であり、そのためには、日頃から10倍にしていくための、創造的破壊思考を意識していくことは大切です。


働き方改革の土台がないと本当の意味での成果はでない。

 働き方改革は、単なる制度設計の話ではありません、それがどんな課題を解決し、どんな未来につながっているのかを各層ごとに動機付けを通じて当事者意識を持たせ、成果の出し方をどのように変えていくのかという戦略・戦術が明確になり、その上で実現できる働き方や、制度設計をしていくことが大切です。

 制度はできたのに、思うように運用ができていない、部署ごとに不公平を感じているなどは、この全体のどこかに問題がある可能性があります。また前述したように、経営者主導のプロジェクトで、全部署のキーマンをアサインしたプロジェクトでなければ、これら全体設計から全メンバーの当事者意識の醸成、そして運用と本当の目的達成に、至るまでがスムーズにいかないことがあります。


 これから取り組まれる企業さんだけでなく、既に取り組まれている企業さんも、働き方改革の成果である「生産性の向上」と「環境整備」の2つの目的から振り返り、もう一度見直してみてはいかがでしょうか。


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